世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ヘッセ「車輪の下に」

今年36冊目読了。神学校をドロップアウトし詩人になった筆者が、自身の経験を下敷きにしながら若者の苦悩を描く一冊。

エリートの主人公の全能感から、天才肌ながら魅力的な友人に惹かれていく様子、そしてそれによって道を外れていく過程が怖ろしくリアル(→ま、ほぼ筆者の私小説といっても過言ではないのだが)。若者の揺れ動く心のもろさ、はかなさは、15歳ころに本作を読むべきだった…と思う40越えのオッサンの素直な感覚(苦笑)。

しかし、実際には、ドロップアウト後の人生もまた長いわけで。そのあとの人生の灰色加減、暗さ、その中で覚える初恋の魅力、そして周りから「あいつは落ちぶれた」という冷たい目線、そんな中で自分を探しさまよう姿…これまたヘッセの体験があったのだろう。いちいち描写がリアルで、胸に突き刺さる。なんなら、昨今の「自分探し」をしている若者たちに読んでもらいたいくらいだ。そのラストの衝撃と共に、人生を考える参考になるだろう。

求道的な真面目さと、享楽的な明るさと。その双方は、両立できないものなのか…と思わずにはいられない。あるいは、その双方を往来しながら、だんだん人間は深まっていくものなのかもしれない。純粋でないと流されるが、純粋のままでは生きていけない。さはさりとて、純粋さを持ち続けないとただ何者でもない自分にしかなり得ない。いろいろなことを考えさせられる。

この本、15歳頃で読むべき本だが、改めて中年になって再読するという読み方もあるだろう。実際、初読ながら、自分は思うところが多かった。