世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】サン・テグジュペリ「人間の大地」

今年29冊目読了。飛行士として空を駆け巡った(そして何度となく墜落した)経験から世の中への洞察を紡ぎ出した一冊。

筆者の本を何冊か読んだが、表現の豊かさと緻密さ、そして溢れる人間への信頼に、非常に温かい気持ちになる。この本も、もちろんご多分に漏れず。しかし、自然という偉大なる存在への畏怖のもとで人間は人間として生きる、という価値観が一貫しているので、傲慢に陥ることはない。

当然、同時代に空を飛んだ飛行士は(今とは比べ物にならないほど少ないとはいえ)数多くいた。その中で、これだけの洞察をしたうえで、これだけの執筆をした、ということは他の誰もがなしえていない。この点においても、筆者のたゆまぬ自己陶冶の努力、観察と表現という両輪を磨き上げていく不断の過程、というものに思いをはせざるを得ない。

どうせ、自分の表現力では素晴らしさが伝わらないので、幾つか名言を抜き取ってみた。

・人間は障害に挑むときにこそ自分自身を発見するものだ。
・教養、文化、職業といったフィルターを通して眺めなければ、どんな風景も意味を持たないのだ
・職業というものの尊さは、何よりもまず、人と人を結びつけることにある。この世に本当の贅沢は一つしかない。人間の関係という贅沢がそれだ。
物質的な富を蓄えることだけのために働けば、自分で自分の牢獄を築くことになる。生甲斐を何も与えてくれない灰のような金を抱えて、孤独の中に閉じこもることになる。
・たしかに使命感は人が解放されるのに必要だ。だが、使命感を解き放ってやる必要もあるのだ。
・人間とその欲求を理解したいと思えば、また、人間の内に潜む本質的なものに着目して人間を捉えたいと思えば、あなた方一人一人の真実のどれが正しいか、正しくないかといった議論をやめることだ。
・真実は論証されるべきものではなく、物事をシンプルにするものだ。
・どんなにささやかな役割であってもかまわない。僕らは自分の役割を自覚して初めて幸せになれる。そのとき初めて、心穏やかに生き、心穏やかに死ぬことができる。人生に意味を与えるのは、死に意味を与えるものだから。
・矛盾を受け入れることによって生じる不安、混乱、疑念、無秩序そのものが、本質的な意味で豊かな実りをもたらしてくれる。狂信的な思い込みよりも高次の喜んで、つまり人間の意識の勝利という喜びを準備してくれる。