今年28冊目読了。推理小説の礎にして、恐怖小説も巧みに描く筆者の名作集。
順番に恐怖小説から推理小説へと並べているこの一冊で、まったく違った作家の本を読んでいるような錯覚に陥る。筆者にとっては、人の恐怖を煽る、おどろおどろしい「緻密に計算された謎」を描き出すこととと、人が謎に感じるも、最後は完璧にパズルのピースがすべて嵌まる「綿密に計算された謎」を描き出すことは全く同じなのだろう。しかし、読み手からすると「気持ち悪い謎が残る、読後の嫌な味わい」と「謎がすっきり解ける、気持ちのいい読後感」という正反対の感覚に陥るのだ。
アッシャー家の崩壊は、とにかく気味が悪い。いったいどうしたら、こんな小説が書けるのだろうか。そのほかにも、不快さにかけては筆舌に尽くしがたい小説がいくつも。人間の感情の揺らぐポイントを知り尽くしているのだろう、「だれが読んでも不快」というのは、なかなか凄いことだ。
他方、黄金虫に代表される推理小説は読み終わると目から鱗。黄金虫は、子供の頃に読んだことがあるが、挿絵までリアルに思い出せるほどワクワクした。結論は知っているのだが、それでも面白いというのは本物ということなのだろう。
これだけの小説を書くことができるというのは、どうやればできるのだろう。人の心理を観察し続ける冷徹な目と、共感のセンスがなければ到底たどり着けない。こうしたことを考えるという点においても、やはり筆者は天才で、本書は名作だ。