今年27冊目読了。シェイクスピアの喜劇の名作。
人が入れ替わり、それに伴うコミカルな勘違いが巻き起こすドタバタ劇を、人の心の内を描きながら巧みに表現した名作。もちろん、シェイクスピアゆえ、それだけで終わるわけもなく、人間が虚構・偶像・自分の理想に勝手に憧れ、恋焦がれるという滑稽ながらも恋愛の本質を抉り出すところがさすがである。
心理学を学んでいると「人間は、自分が見たいものしか見ない」ということを知識として頭に入れているのだが、それを戯曲という形でここまで圧倒的に見せつけるのは、やはりシェイクスピアならでは。漫才にありがちな「やりとりのズレ」を楽しむという軽い面白さもあるのだが、その奥に刃物のように隠されている「人間の愚かさ」への暗い光を当てているという重い面白さをいっぺんに成立させている、というのはさすが天才ゆえである。
そして、それでいて推理小説のように、張り巡らせた伏線を見事に大団円に向けて回収していくストーリー展開。まったく、シェイクスピアを読むと、掘っても掘っても面白い。読むと演劇が見たくなるのだが、読書による想像でもどんどん膨らんでいく世界観。悲劇だけでなく、喜劇でも学びが深い、というのは本当に縦横無尽の筆の冴え、ということだろう。