世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】鬼頭宏「人口から読む日本の歴史」

今年25冊目読了。上智大学経済学部教授の筆者が、歴史人口学を通じて日本の在り方を書き記した一冊。

〈お薦め対象〉
日本の人口の今後に不安を抱える人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★☆
〈実用度(5段階評価)〉
★★☆☆☆

自分の問いは3つ。
『日本の人口はどう変動してきたか?』には「まず、縄文時代に狩猟・漁労・採取で人口が増えた。その後、弥生時代以降は水稲農耕化システムで人口が増えた。さらに、室町時代から江戸前期に経済社会化システムで人口が増えた。最後に、工業化システムへの文明転換で人口規模が増加した。」。
現代社会の人口変動はどう見るべきか?』には「先進国の人口停滞化、途上国の人口爆発は、人口転換のタイムラグを表す。工業文明は、他の文明と異なり、世界拡散が短時間なので各地域が同調した波動となり変化が増幅されている。技術発展の結果、死亡率の改善と出生力抑制の両面で意図的コントロールが可能となっている」。
少子高齢化に向け、日本はどうすべきか?』には「効率的な資源利用による簡素な豊かさの実現。少子化の受け入れと静止人口の実現とともに、超高齢化社会に適合したシステム、ライフスタイルの確立。官民の役割を明確化して、新しい時代に適合的なシステムを模索するため多様な挑戦を試みる」。

2000年の著作ながら、まったく色褪せない主張、というところが、慧眼というべきか、18年にわたる社会の時間浪費(思考停止)とみるべきか。「人口減少に適合した人口再配置、多様な社会構成員の共存を認める寛容性(バリアフリー)※、長寿社会への制度的対応と意識改革、家族の新しい形態模索」という主張は、具体性はないものの、今となんら変わらない。
※今でいう「ダイバーシティ」を、2000年当時に「バリアフリー」と言っているあたりは興味深い。

そのほかにも「人口成長の限界は、技術革新の限界、気候悪化、疫病、社会体制の変質」「現代日本の結婚の変化、少子高齢化、家族形態の変化は、社会病理や社会問題として見るのではなく、工業化による文明システムが形成・成熟したことに随伴する現象」など、抵抗せずに受け入れようという姿勢が20世紀に既にあったことに驚きを禁じ得ない。

途中、江戸時代の人口統計のあたりは「読むのがかったるい」が、「もっと早くやっとけよー!」という感覚を味わうには非常によい。また、後付けであるが「産めよ増やせよ」「一億総活躍」なんて、システム違ってるんだから無理!さっさと受け入れろ!という感覚の主張もすっきりしている。具体策がないのはモヤモヤするが、興味があればご一読を。