世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】サン・テグジュペリ「夜間飛行」

今年22冊目読了。伯爵の位を持つ名門の出ながら、パイロットとして空を飛び続けた筆者が、自らの体験をもとに紡ぎ出した一冊。

自然の美しさと猛威、最前線を飛ぶ飛行士・通信士の思いと後方で全体を考えるリーダーの思い。対照的なコントラストが精緻に描き込まれていて、ぐいぐい惹きつけられるままに、一気にラストまで飛びきった、という感じ。人間の正義とは何か、責任とは何か。そして、自然と技術というものはどうかかわっているのか。そういったことまで考えさせてくれる。かつ、ラストがまた心を揺さぶる。

なんといっても、圧倒的なリアリティ溢れる描写がたまらない。自分があるときは最前線を飛び、あるときは後方事務所にいる、というような「どっぷり浸る世界観」は、本当に素晴らしい。知性と感性を双方磨き、かつそれが飛行士という実体験をクロスオーバーさせているのだから、誰がやってもかなわない次元の小説に昇華している。

もちろん、現代においてはリーダーの価値観というのは当時(戦前)とだいぶ変わっているし、本書に出てくるリーダー像が絶対とは思わない。しかし、情と責任の相克を乗り越えてこそリーダーである、という点は今も変わらないのではなかろうか。最前線の飛行士たちは重力から自由になって飛び立っていくが、リーダーは重力よりもはるかに思い責任を担いながら飛び立たねばならない。そんな事も学ばせてくれる。小説としても素晴らしいし、人情劇としても秀逸だが、実はリーダーシップについて考えさせられる一冊だ、と思う。