世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ジャン・コクトー「恐るべき子供たち」

今年18冊目読了。麻薬中毒にも陥ったことのある筆者が、独特の筆致で描く世界観と、その不思議な結末。

立ち上がりから、あまりにも現実浮遊していて、なんともモヤモヤしながら読み進む。しかし、終盤になると、それまでのゆっくりとした前段を一気に巻き上げるが如く、物凄いスピード感で進み、結末になだれ込む。

むしろ、現実浮遊しているからこそ、愛憎相半ばともいうべき感情を剥き出しに描き出しているように感じる。他者への憧憬、好意、それからくる負の感情、失いたくないという嫉妬心。コクトー自身が描いたという挿し絵とともに、人の感情の脆さ、そしてそれでもすがる気持ちを生々しく味わう事になる。いやはや、こんな話なのか…ネタバレになるので詳細は控えるが、「心が巻き取られて寂寞感が残る」という読了感はかなり独特だ。

人は皆、純粋な想いを抱いている。しかし、同時に傷つきたくないし、それ故に様々な経験と向き合わずに不合理に美化して折り合ってしまう。そんなことと向き合わされる、謎の小説だ。

ボリュームは軽いのだが、中身はかなり重い。心して読みたい一冊だ。