今年17冊目読了。何度となく劇場化されている名作で、紹介することすら恥ずかしい。
今更ながら読んでみて「なるほど、こういう話か」という感想もさることながら、緻密に張り巡らせられた伏線、それを丁寧に回収する展開、そして何より「得体のしれない化け物」という恐怖から現実の悲哀になだれ込む流れ、人という存在の哀しくも慈愛に憧れてそれを希求する宿命、というものを如何なく描き出し、最後には圧倒的な悲しみの中でひとつの結論を迎える。
いやぁ、これは凄い。哀しい運命を背負った怪人と、恐怖に向き合いながらも自らの宿命に向き合う歌姫、そしてそれを取り巻く人々の八面六臂の活躍(滑稽な面も含めて)。それを通して、人間という存在の業の深さ、見てくれや他人の評価に踊らされる愚かさ、そんな中でも自分が信じるものに対して向き合っていくことの強さ。そして、哀愁…これだけの価値観を、舞台装置というギミックによって変幻自在に描き出す筆者の圧倒的な人間観察力、創造力、想像力に感服するしかない。
外観、才能、機智。怪人を怪人たらしめたその要素こそ、誰もが心の中に飼っていて、認めてほしくて認めてもらえない「怪人」なのかもしれない。ゆえに、これだけ人の心をつかんで離さない、と考えると、これが不朽の名作であることがよくわかる。
人間というものは、すべからく汚く愚かでわがままで、それでも純粋である。哀しくも素晴らしい人生賛歌。数々の仕掛けと驚きの展開も、この通奏低音あればこそ輝くものである。「読まねば、死ねぬ」。そんな思いを抱かせてくれる一冊だ。