世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【国宝こぼれ話:千円札と富士山と。】

毎週、お札をテーマに国宝を紹介してきた。ということで、残るは千円札…なのだが、実は国宝が描かれていないのだ…

ということで、千円札を切り口に、「え、そうなの?」という話をば。


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千円札の裏に描かれているのは、ご存知、富士山。これは、本栖湖で岡田紅陽の撮影した写真をもとにしている。だが、写真は国宝にはなっていないので、今後も期待薄。となると、富士山を描いた絵画が有力??
もちろん、富士山で絵画、となれば、まぁほとんどの人が葛飾北斎富嶽三十六景」を思い浮かべるのではなかろうか。世界的にも評価が高い浮世絵であり、これがお札になっても不思議はない。しかも、さらにグローバル化が進めば、日本のアピールにもなる。

…が。実は葛飾北斎富嶽三十六景」、一枚も国宝になっていないのだ。さらに言えば、浮世絵は一枚も国宝指定されていない。国宝の定義は「国が指定した有形文化財重要文化財)のうち、世界文化の見地から価値の高いものでたぐいない国民の宝たるものであるとして国(文部科学大臣)が指定したもの」(文化財保護法より)であり、なんで?と違和感を持たれるのではなかろうか。

江戸時代のものであっても国宝指定はいくつもされているため「時代が浅い」という理由ではなさそうだ。個人的に思うのは「浮世絵は版画によって量産できる(一点ものでない)」ということではないかと考える。指定されている国宝は、すべて「一点もの」ばかりであるので。

さらに言えば、浮世絵が世俗的、ということも要素ではあるように感じる。もともと、国宝のはじまりは、アーネスト・フェノロサが明治の混乱期に文化財が二束三文で海外の蒐集家に売られていく様子を見て「このままでは古い文化財が散逸してしまう」と思ったこと。この沿革からしても、浮世絵が国宝に指定されることはなさそうだ。