今年12冊目読了。巨匠・太宰治が自らの人生を映し出すようにその苦悩を小説化した超名作。
さすがに、これはかつて読んだことがある。その頃は今ほど人の心理や真理に興味が薄かったため、ただただ「陰鬱で、すごく暗い気持ちになる小説だなぁ」というのが本音だった。
それがどうだ。社会人経験をある程度重ね、人の心理や真理に興味を持つようになって読んでみると、主人公の社会への怯え、それへのお道化という哀しい折り合い、そして破滅に突き進む愚かさ。これらが、「多少の差はあれ、自分にも確実に要素として存在する」と感じられるようになり、主人公をとても突き放すことができず、むしろその陰鬱さをさらけ出すという勇気ある行動にすら怯える自分がいることに気づく。
どんなに清廉潔白であっても、人間、邪心や破滅願望、ダークサイドは持ち合わせている(それをあからさまに出すか否かは別であっても)。それを、これでもかとばかりに暴露していく様は、鬼気迫るものがある。
今、自分があることの幸せ、そしてそんな自分にも確実に存在するダークサイド。そういった現状を見つめ、改めて自分の生きざまを問うにはもってこいなんだな、だから不朽の名作なんだな、と感じる。これ、60代になって、今一度読む必要がありそうだ。「名作には、それだけの理由がある」。そういうこと、なんだろうな。