今年8冊目読了。推理小説の礎ともいうべき著者の代表作。
実は、子供のころに「モルグ街の殺人」は読んだことがある(いまだに、挿絵をリアルに思い出せるくらいだから、相当インパクトあったんだろう)。なので、「答え」は知っていたのだが、改めて読んでみると、その描写の緻密さ、構成の精巧さに舌を巻く。「人間の感情はこう動く」ということを知り尽くして寄木細工を構築するがごとし。
凄いなぁ、と思うのは「科学実験のように人の心理動向を分析し、必ず同じ『恐怖』という答えに持っていく」ということ。文章においても、緩急自在であり、スピード感が同じ作品の中で(意図的に)まったく異なり、それがまた恐怖を招く。人の心理を、料理のレシピのような小説で切り刻み、恐怖という料理に仕立て上げる、という技術力は、そんじょそこらの人間洞察では鍛えられない。
そして、名探偵デュパンの人間観察と分析の力は、まさにポーの分身。おそらく、彼もこのように人間観察・分析を行っていたのだろう。この本を最初に読んだあの子供の頃に、それに気づいて人間観察・分析の力を鍛えていれば…と天を仰がずにはいられない。
ま、それから30余年。自分が成長した、ということなのだろう。改めて、過去に読んだ本を再読する、ということの意味を見出すことができたので、再読してよかった。本当は、その時の「自分の心の動き」を記録していれば、なお対比が明確になったのだろうが…ログを残す、ということはかくも大事なことである。