世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ジェームズ・R・チャイルズ「最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか」

今年53冊目読了。アメリカ技術評論家の筆者が、技術の限界に近づくことで起こるリスクとそれに対する人間の行動様式を書き記した一冊。

〈お薦め対象〉
リスクと向き合う仕事をしているすべての人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★★★

自分の問いは3つ。
『人間の行動特性は?』には「精神的圧迫を受けると、飛躍した結論を出す傾向が強い。一つの行動を決定するとそれにしがみつき、相反する事実が出現しても行動を変更しない。統計ではなく、自分が実際に経験したことによって自分の確率を決める。睡眠不足になると、判断力が大きく減退する」。
『重大事故へと導くものは何か?』には「貧弱なメンテナンス、意思疎通の悪さ、手抜きなど複数の要因の組み合わせ。危機を乗り切るために真剣に対策を考えず、日々のルーチンに固執する。問題回避のゆとりが十分に残っていると決めつける。文章における伝達ぬきの安易な処置。」。
『重大事故を回避するためには?』には「マシンのことをわずかしか洞察できていないという自覚を持つ。安全確保のために余裕をねん出し、状況を検討する。繰り返して話し、情報を正しく伝える。今自分はどこにいて、なにをしたらよいのかを思い起こす。最悪の日には複数のものごとがうまくいかなくなる事実を受け入れる」。

これは、抜群に面白い。事故の研究というと、畑村陽太郎「失敗学」が有名だが、正直、人間行動特性まで抉り込んでいる点で、こちらのほうがはるかに素晴らしいし、学びが深い。
「疑いを持たないことは、何も知らないのと同じくらい危険」「起こるはずがないと思いたい災難の多くは、起りえないのではなく、起こるまでに時間がかかるだけ」「警告メモは、怠惰を正しにくく、上司を困らせる効果を持つほうが多い」「生存には、スタミナと生きることへの執着心が大きく左右する」「怒りを抱けば崖っぷちに立たされ、そこから転落することもたやすい」など、危機管理の観点から、留意すべきヒントが実践から山のようにちりばめられている。

リスクと向き合わない仕事、というのがそもそもなく、どんな仕事もマシンと絡み合っている以上、すべてのビジネスマンに必読の書と言えよう。分厚い文庫本だが、面白いのでガンガン読み進められてしまう。超おすすめの一冊。