世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】グレアム・アリソン「米中戦争前夜」

今年48冊目読了。ハーバード大学ケネディ行政大学院初代学長にして、クリントン政権下の国防次官補を務めた筆者が、新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオを書き記した一冊。

〈お薦め対象〉
世界史、現代世界経済に興味のある人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★☆☆

自分の問いは3つ。
『歴史が教えてくれる教訓は?』には「優れた戦略家は、情勢変化を観察し、変化を育てることに時間を費やし、最適な組み合わせになったときだけ動く。重要な国益を守るチャンスを何度も逃すのは、政府に一貫したビジョンがなく、妥協の産物で政策が決まるから。いったん与えられた支配権を引き受けると、体面、恐怖、利益の点から手放すことができなくなる」。
『大国が衝突するメカニズムは?』には「不安にかられると、不安が正しいかは重要ではなくなる。ライバル国の国内で強硬派の声が大きくなり、平和を唱える者は厳しく批判される。新興国、既存の大国とも、自分は正義で合理的と考え、敵の行動を疑わしく危険と考える」。
『どうすれば衝突を回避できるか?』には「アメリカのオプションは①新旧逆転に適応する②中国を弱体化させる③長期的平和を交渉する④米中関係を定義しなおす。中核的な概念は①重大な利益を明確にする②相手の行動の意図を理解する③戦略を練る④国内課題を中心に据える」。

これは抜群に面白い。既存の大国(アメリカ)と新興国(中国)それぞれの心理状況を、過去の動揺の事例に照らし合わせながら明らかにしていく。これを読むと、確かに米中衝突はなかなか避けがたいことがよくわかる(原題も「Destined for War」である)。でも、過去に衝突を回避しながら既存の大国と新興国のバトンタッチがなされた事例もあることから、完全に希望を失う必要もない、というのが著者の主張であり、これには強く同意する。

会心理が、全体として不適な選択を導く、というのは悲しい事実であるが、構造を明確化したことにより、その暴走を回避する叡智を示した点で、非常に良書だと思う。歴史好きなら、絶対に読んでおきたい一冊だ。