世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

山口周「世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?」

今年44冊目読了。電通ボストンコンサルティンググループを経て、現在、組織・人材開発のコーン・フェリー・ヘイグループのシニア・クライアント・パートナーの筆者が、経営におけるアートとサイエンスについてを書き記した一冊。

〈お薦め対象〉
リーダーシップに関わる仕事に就いているすべての人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★★★

自分の問いは3つ。
『従来型経営の行き詰まりの理由は?』には「論理的・理性的情報処理スキルでは、差別化の消失・創造力のマヒという限界に来ている。論理・理性でシロクロつかないと、経営における意思決定の膠着と、その結果としてビジネスの停滞が起きる。責任が強調されることで、後で責められた時に言い訳ができるか?という意思決定者の責任放棄の方便となってしまう。言語化できることは、すべてコピーできる」。
『なぜ、経営に美意識が必要なのか?』には「生活水準の上昇により、商品・サービスに求められる便益は安全欲求から自己実現欲求へ進展する。様々な要素が複雑に絡み合う世界では、全体を直観的に捉えられる感性と真善美を感じられる構想力・創造力が求められる。外観とテクノロジーは簡単にコピーできるが、世界観とストーリーは決してコピーできない」。
『美意識はどう鍛えればよいか?』には「絵を描き、様々な認知能力を高める。狭い世界の掟を見抜けるだけの異文化体験を持つ。アートを見ることで、観察力を向上させる。詩を読むことで、メタファーの引き出しを増やす」。

仕事はアート、というのは私淑する田坂広志先生がよく使う言葉なので、非常にしっくりくる。そのほかにも「リーダーがやれる仕事は、徹頭徹尾コミュニケーションでしかない」「システムを修正できるのは、システムに適合している人のみ」「世界はろくでもないものと知りつつ、より良いものにすべく、あきらめずに考え、希望を失わない」など、勇気づけてくれる記述が満載。久々に、付箋の嵐のようになった本だ。

新書であり、読みやすいのだが、あまり軽々しく読まないほうがいい。とにかく、洞察が深いので、さらりと読もうとすると、その深淵に触れることなく通り過ぎてしまう。「じっくり読みたい新書」というのは、やはり、その記述が本物なればこそ。持ち歩きが便利なので(cf.「Teal組織」)、その点でも買い上げたうえでの一読をお薦めしたい。