世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【世界遺産を学ぶ意義~日本の世界遺産を学んでみて~】

 日本に存在する世界遺産20件(2017年5月現在)について、ひととおり学んだ。一つの資産につき、2~4冊の本を読んで感じたことは、以下のとおり。

●資産についての理解が深まった
 「何を当たり前な…」とのお叱りを頂戴しそうだが、実はこれ、かなり大事だと感じる。
 自分を含め、世界遺産というだけで「なんか、有り難いものなんだろう」という理解をしてしまい、そこを来訪することが目的化する傾向は否めない。しかし、「なぜ、世界遺産登録されたのか?」「課題は何か?」という視点があってこそ、理解は深まる。
 また、文化遺産においては、登録基準だけではない人の営みがそこにあるし、自然遺産においては、人間の時間軸を遙かに越えた地球の進化の過程がある。
 そして、この積み重ねにより、それぞれの遺産の独自性も浮き上がってきて、理解できるようになる。そんな感覚がある。

●知識と興味の範囲が拡大した
 自分は、本好きなれど、どうしても興味の範囲が限られており、ついつい得意分野ばかり掘り下げていた。
 しかし、「世界遺産だから…」という大きなテーマを軸にすると、もともと興味がなく、よってもって知識もない分野についても「学ぶ」きっかけができる。事実、従前はまるでチンプンカンプンだった現代建築や植物相などについて知識を得ることができた。
 そうすると、面白いもので、「知識」という触手が広がることにより、今までは捨て去っていた情報が引っかかるようになってくる。卑近な例では、小1の娘が大好きなテレビ番組「ダーウィンが来た!」を見ていても、自身も「あぁ、あれか!」と興味を持てるようになった。それにより、真面目に観る→知識が深まる、という好循環を生み出す。
 人間の脳は、機械と違って曖昧だ。しかし、それ故に「関係ない情報を繋ぐ」という創造性を有する。興味の幅を広げることは、情報(=知識)という脳内の「手札」を増やすことであり、創造性の拡大という点で非常にパワフルだと感じる。

世界遺産に対し、適正に「批判的な目」が持てるようになった
 逆説的だが、これも大きな成果。世界遺産登録というと、完全なる保護、及び観光地としてのバラ色の未来が約束されたように思える。が、自然遺産においては「登録エリア外の保護」「登録前からの住民の生活」「増加する観光客の影響」などの課題が、文化遺産においては「増加する観光客の影響」「保全の困難さ」「意義を正確、丁寧に伝えること」など、いくらでも課題が存在する。
 また、登録に至る経緯にも大きな問題がある(cf.野口健世界遺産にされて富士山は泣いている」)。特に、文化遺産は政治的な駆け引きが絡みやすく、「顕著な普遍的価値」を満たしているのか?という本末転倒な状況も起こってきている。
 世界遺産だけを有り難がらず、適正に「素晴らしい資産」を大事にする。その思いを抱けるようになるのも、学びによる気付きだ。

 …それにしても、日本だけしか見ていないのにこれでは、世界の世界遺産を学ぶとどうなるのだろうか?そして、海外の世界遺産については、書籍があるのか?(←マニアックな世界遺産も多い)という「そもそもの問題」も横たわる。
 まぁ、やってみてから考えよう。

〈参考図書〉
佐滝正剛「世界遺産の真実」
平泉がいったん落選した経緯と、石見銀山の登録とその後を切り口に、「世界遺産」を問い直す一冊。
世界遺産検定マイスター取得者にして、NHKに勤務して数々の関連番組を手掛けてきた筆者の記述は実に学ぶところが多い。実は、世界遺産検定マイスター受験の際にも参考にさせていただいた。ぜひ、お勧めしたい。