世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】アインシュタイン、フロイト「ひとはなぜ戦争をするのか」

今年21冊目読了。国際連盟の求めに応じ、アインシュタインが議題、議論の相手とも自由に選ぶという企画で実現した書簡対話を納めた一冊。


「国際的な平和を実現しようとすれば、各国が主権の一部を完全に放棄し、自らの活動に一定の枠をはめなければならない」というアインシュタインの提言に対し、フロイトも「個人の粗暴な暴力が克服されるには、権力が多数の人間の集団へ移譲される必要があるし、この人間集団を一つにつなぎとめるのは、メンバーのあいだに生まれる感情の絆、一体感」と答える。そして、心理学的アプローチから検証したうえで「文化の発展を促せば、戦争の終焉へ向けて歩み出すことができる!」と力強く宣言するに至るのだが、ここは実際に読んでいただきたい。


「人と人のあいだの利害の対立、これは基本的に暴力にやって解決されるもので、動物はみんなそうやって決着をつけている」「征服によって勝ち得た状態は、長続きしない。暴力の力でさまざまな部分やさまざまな単位を強引に一つにまとめても、それをいつまでもつなぎ止めておくことができず、新たに作り出された大きな統一体も瓦解していく」「法といっても、つきつめればむき出しの暴力にほかならず、法による支配を支えていこうとすれば、今日でも暴力が不可欠」などは暗澹たる気持ちにさせる。


しかしながら「社会をまとまるのは、暴力が一つ、メンバーの間の感情の結びつき、専門的な言葉を使えば、同一化ないし帰属意識がもう一つのもの」と光明を感じさせ、「心理学的な側面から眺めてみた場合、文化が生み出すもっとも顕著な現象は二つ。一つは、知性を強めること。力が増した知性は欲動をコントロールしはじめる。二つ目は、攻撃本能を内に向けること。好都合な面も危険な面も含め、攻撃欲動が内に向かっていく」として、文化というものの力を信じるフロイトの思いが伝わってくる。実際、文化の力というのが人間の進歩を支えてきたのであり、その力を実に冷徹に分析している。


知識人ではないが、読者好きの端くれとしては「知識人こそ、大衆操作による暗示にかかり、致命的な行動に走りやすい。なぜか?彼らは現実を、生の現実を、自分の目と耳で捉えないから」を警句として、現実を見るように心がけたい。


講談社学術文庫で薄手の本だし、養老孟司斎藤環の解説も、読み応え十分。これは超良書、必読の一冊だ。

【名将・野村克也氏逝去に際して(言語化の達人)】

パ・リーグ歴代最強打者にして、弱小チームを率いて成果を挙げた名将・野村克也氏が2月11日に逝去した。リーダーとして、ビジネスにおいても非常に参考になる教訓を数々残された方だ。その訃報に際し、感じたこと。


<ポイント>
●学び、実践し、教訓化する。
野村監督の教養の幅広さは、言っては何だが「アスリート」のレベルではなかった。なまじな政財界の人間より、はるかに学んでいたし、古典にも精通していた。
しかし、本当の凄さはそこではない。それをリーダーとして組織牽引に「わかりやすい形で」活用し、それを「今、このように活かすことができる」と教訓化したことである。


●達人的な言語化
野村監督といえば、執筆活動の旺盛さも常識を超えていた。「マスコミが飛びつきやすい」「相手が理解しやすい」キャッチフレーズで、自分の得た教訓を表現することのなんと巧みであったことか。
「~~語録」と言われるものを残すスポーツ選手は数多いが、そのままビジネスリーダーの教訓書となる人なんて、寡聞にして知らない。


<問題の所在>
●組織はリーダーの器以上には成長しない。
野村監督の名言の一つで、自身がよくかみしめる言葉。立場が上がれば上がるほど「権力」というカードを手にすることにより、メンバーからの「真摯な」フィードバックがどんどん減っていく。
そうなると、ついつい、人間は自分に甘いので「今までのやり方(=自分なりの勝ちパターン)でよい」と、得意技を使い続ける事だけで成長を放棄してしまう罠に陥りがち。
野村監督は、とにかく学び、そしてアウトプットを繰り返していた。リーダー自らが「器を広げる」努力をすることが、組織を活性化していったのだろう。そして、「知将」という側面だけでなく、「信は万物の基を成す」という「情に厚い」側面もある。人間観察、心理術を学び、実践しつくした名将だからこそ、だろう。


いくつになってもチャレンジしていく姿勢。「しっぱいと書いて、成長と読む」を引くまでもなく、「体現することで織りなした」名言だからこそ、人の心に響く。実践する姿勢を、忘れずにいきたい。


自戒の念を込めて。

【読了】堀江敏幸「なずな」

今年20冊目読了。ひとりの赤ん坊を中心にしつつ、田舎の村での何気ない日常が赤ん坊にかき乱されながらも穏やかに進む日々を描き出した一冊。


実に不思議な読書感だ。子育てに関わった経験がある人なら、生き生きと風景が浮かび上がるような春の薫風のような穏やかな筆致。淡々としているようで、少しずつ変化が生まれ、それを生み出しているのはまさにひとりの赤ん坊。それを取り巻く人々の、緩やかで温かい絆もまた、人生の持つ素晴らしさを感じさせてくれるし、子供が大人をつなぐ交流点となっていることを改めて思い出させてくれる。


「人が人と接するときは、知り合ってからの時間や関係の深い浅いだけではない、タイミングというものがあるのだ」「人を見る目なんて、そうあるものではない。現在位置を教える神の視点はあっても、私たちの変化まで予知できるような視座はどこにもない。間近にいる人間と、とにかく愚直に言葉を交わし、『いま』を見定める――その繰り返し以外にないのだ」というあたりは、穏やかなれども鋭い視点。


「日々のなかで最も厄介で、最も慎重にならざるをえないのは、小さな相違を抱えている者同士の言葉のやり取りだろう。戦のおおもとには、いつもそういう局所的ないさかいがある。『諍い』はただの口喧嘩ではない。言偏でできた、言葉の争いでもある」「気持ちの伝わりやすい動線とはなにか。それはたぶん、定石ではなくて、戦いながら、そのたびに判断を下して描いていくほかないものだろう」というところは、気持ちが揺さぶられるが、現実である。


「子連れの行動の難しさは、大勢のなかにまぎれることでしか解消できない部分があるのだ。広大なショッピングモールに家族連れが詰めかけるのは、自分たちだけに厳しい目が向けられることがないからだろう」「時間は巻き戻さないけど、なにも嫌なことまで巻き戻す必要はないでしょ、巻時計っていうのは、先に進めるために巻くんです」なども、非常に練り込まれた観察と文章力。


子育て前の人、乳飲み子を育てている人、そして子育てが進んでどちらかというと「思い通りにならない子供」に苛立つ人。そんな人に、子供と世界の素晴らしさを思い出させてくれる良書。学生時代の友達が薦めてくれて読んだが、本当に良かった。自分からでは絶対に読まない一冊だった。

【読了】熊野英一「仕事も家庭も充実させたいパパのための本」

今年19冊目読了。株式会社子育て支援代表取締役の筆者が、アドラー心理学を活用したワークもライフも充実させることを提唱する一冊。


働き方改革について「ほんとうに必要な視点は、1)幸せでありたいと願うわたしたちの、人としてのあり方に根差した改革。2)わたしたち日本人の生き方改革、3)私たちの個々人のコミュニケーション改革」と位置づけ、論証をしていく。
アドラー心理学をベースにしているので、理解しやすい。「自立した大人の条件は、勇気、責任感、協調精神の3つを持つこと」「家庭でも、仕事でも、土台となるアドラー的価値観は、相互尊敬、相互信頼、協調精神、共感」「信頼されて、裁かれることのない安心・安全な環境にいることが、失敗を恐れずに勇気をもって、自分の能力を最大限に発揮できる」「幸せとはつまり、自己否定ではなく自己受容、他者不信ではなく他者信頼、自己犠牲ではなく他者貢献。この3つがそろうと、人は幸せを感じ、精神的自立ができる」など、わかりやすくイラスト入りで噛み砕いてくれる。


すぐに使えるフレーズも多数。「勇気づけはとてもシンプルで簡単なので、すぐに実践できる一方、奥が深いので、おけいこ事のように日々、実践を繰り返すことで熟達する」「相手を操作しようとするコミュニケーションをしてはいけない」「正論ではなく、相手の感情に寄り添う方法を家庭で学ぶ」「原因を探すより、目的を意識する」「他者貢献していても、自己犠牲していては、幸せになれない」などは、耳が痛いが、まさにやり続けるべきこと。


「企業の行動変容や文化を変えるというとき、もっとも大切なことは人の心をしっかりとつかむこと。そして、それはロジカルな部分ではなく、感情の部分」というのは、常日頃感じていることであり、改めて心にとどめたい。


朋友から勧められて読んだが、さらりと読めるうえに、なかなか奥深い。あまり本を読みつけていない人にも読みやすいので、一読をお勧めしたい。

【QC:体感しないとわからない世界。】

かねてより、QC(品質管理)活動に携わる機会が一定量ある。もともと、最初に先輩管理者が「伴走しながら」教えてくれたことで、自家薬籠中のものとすることができたことには、今でも感謝しきりである。


<ポイント>
●ツボを押さえると、めきめき上達する。
QCストーリーには、いくつものステップがある。しかし、その中でも強弱はあり、特に大事なのは「テーマ選定」「現状把握」「要因解析」の3つだと感じている。ともすれば、「答えから鉛筆を舐める」QCに陥りがちだが、このツボを押さえると、ものすごく精度が上がる。


●「体感」しないと、「体得」できない。
QCについては、色々なテキストや学習ツールがあるが、いかんせん、「全く関係のない事象」について学んでも身に付かない。
実際に、自分が業務上で困っている問題について「なるほど、こうやるのか!」と体感しないと、体得することが出来ない。


<問題の所在>
●やり方がわからずにやって、「失敗」の学習をしてしまう。
先輩管理者からの学びを受けて、よく使うたとえが「QCは自転車と一緒。乗りこなせれば手軽に遠くまで行ける便利なツールだが、乗り方を知らないと、ただ転んで痛いだけのツール」というもの。
実際、「QCが嫌い」という人はかなり多いが、それまでまともにやり方を教わったこともなく、ただ「やれ、やれ」と言われて嫌々、かつ便利さもわからずにやらされていたという経緯であるようだ。確かに、自転車に乗れと言われて放り投げられ、ただただ転ぶだけでは「これ、いいツールだね!」と思えるはずもない。そして、失敗の学習を強化してしまうのだ。


教えるときには、ただ「やっておけ!」ではなく、ツボを押さえて適度に介入することが大事。そして、成功したということを体感させることが必要。正直、業務上の問題が改善したか否か、ということより、メンバーがQCの考え方を体得する方がはるかに価値が大きい、と思っている。そのためには、まず自分がポイントを知らなければいけないし、学び続ける必要がある。


自戒の念を込めて。

【現場という「大きな艦」の動かし方。】

現場というものは、実に難しい部分がある(よって、苦手な人には耐えがたい環境かもしれない)。自身、どっぷりと現場勤務をした際に、リーダーから教わったことは今なお生きている。


<ポイント>
●「現場は巨大な艦」という比喩。
このときのリーダーは、別職場で現場業務に従事していたことから、現場の特性をよく見極めていらっしゃった。
特に覚えているのは「現場は巨大な艦。小さなボートであれば、舵を切ればすぐにそちらへ曲がるが、タンカーのようなものなので、舵を切ってもなかなかそちらに進まない。我慢して舵を切り続けて、ようやくそちらに曲がっていく」という教え。
なるほど肌感覚としても納得である。


●先を見据えて舵を切る。
上記より「指示をしても、すぐに最前線まで行き渡るわけではない。じっくり取り組んで、舵を切った方向に動かしていく」という覚悟がリーダーに求められる。しかも、舵を切ったタイミングと、実際に曲がりだすタイミングには「遅れ」が生じるので、先を見据えて「この時期に舵を切り、この時期に曲がり始める」ということを想定しながら、まさに「舵取り」をすることが求められる。


<問題の所在>
●目先にとらわれすぎ、長期的視野を失う。
人間は、どうしても目先の成果を追いたがる。それは、自分の行動が適切だったという安心を手早く確定させたいから。
しかし、「自分の行動は適切だったのか?」という不安に耐え、自らの信じるところを拠り所にして行動することでしか、中長期的な「果実」を得ることはできない。


自己満足に陥ることなく、不安に耐える。それには、視野を広げる日々の自己鍛錬と、精神修養が欠かせない。


自戒の念を込めて。

【リーダー不在時のリーダー代行。】

職場のNo.2は色々と難しい部分があるが、特に難しいのは「リーダー不在時のリーダー代行」。そこについて、考えてみた。


<ポイント>
●コンセプトを変えられず、確認できず。
組織連続性という原則から、リーダー不在時においても、リーダーの考える「組織コンセプト」はそのままにしておく必要がある。
そして、それは普段においては「曖昧な時にはリーダーに確認する」ということで担保しているのだが、その担保なく対応するのはなかなか不安が伴う。


●リーダー(他者)の物差しで判断をする難しさ。
もちろん、リーダー不在時には「代行として、判断して構わない」と言われている。しかしながら、やはり、自分の判断とリーダーの判断はできるだけ一致させておきたい。「自分の判断をイメージ→リーダーに確認→確認結果で判断」というフローと「リーダーがどう判断するかをイメージして、自ら判断」は、全く別物の多大なるストレスがかかる。「最後は俺が責任を取る」にも「最後はリーダーが責任を取る」にも立てないからだ。


<問題の所在>
●判断ズレの不安を高く見積もってしまう。
正直、仮に間違ったとしても、そこまで責められるとも思わない。
しかし、どちらかというと「任された以上、しっかりと全うしたい」という気持ちが強すぎて、つい「丁寧にいこう」と、慎重になってしまう。これは、人間の脳みそが不安に振り回されやすい(動物本能として、危険を過大に見積もることにより、種の保存を優先したころの名残)ためである。


とはいえ、縮こまったプレーでは成果は出ない。不安を抑制しつつ、バランスの取れた行動を取っていきたいものだ。


自戒の念を込めて。