世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】又吉直樹「火花」

今年119冊目読了。芸人の著者が、漫才師が師匠と仰ぐ人を見つけてから様々な世界を知り、悩みながら成長していく小説。

…と書くと、いい話っぽいが、実際はとんでもない。人間の自己顕示欲とエゴ、それに対する嫌悪感、そして他者との掴みきれない距離感。これはまさに、21世紀を生きる人々の息苦しさ(≒行き苦しさ)をグロテスクに描き出した快作(≒怪作)だ。恐らくは著者の体験が散りばめられているのだろうが、圧倒的文章力の前に、絡め取られるように引き込まれて読んでしまった。

そして、衝撃のラスト。どうやったら、こんなの思いつくんだ。本当に、鬼才と言うに相応しい。芸人というより、ほの暗い求道者、という感じのある著者らしさが詰まっている。

これを読んで、自身が「師と仰いだ」人と悉く離れている現実を思い知り、ある意味、主人公が羨ましくなった。そして、師匠とは何か?学ぶは「真似ぶ」が語源だが、自身の人生を生きる上で、師匠は数々の示唆を与えてくれたが、結局、道は自分で切り拓くしかない。己を生きるということは、そういうこと、だ。

「一つだけの基準を持って何かを測ろうとすると眼がくらんでまうねん。」「人を傷つける行為ってな、一瞬は溜飲が下がるねん。でも、一瞬だけやねん。そこに安住している間は、自分の状況はいいように変化することはないやん。他を落とすことによって、今の自分で安心するという、やり方やからな。その間、ずっと自分が成長する機会を失い続けていると思うねん。」は、成長・発達を志向する身としては、噛み締める必要があるな。

非常に「嫌な」読了感だが、これは一読をお勧めしたい。

【読了】酒井邦嘉「脳を創る読書」

今年118冊目読了。東大大学院総合文化研究科教授の著者が、「なぜ、紙の本が人にとって必要なのか」を書き記した一冊。

正直、タイトルもサブタイトルも今一つ中身とマッチングしていないなぁ、と感じる。

タイトルの「脳を創る読書」については、「入力された情報が少なければ少ないほど、想像力で補われる部分が多くなる。このため、想像力の情報量は活字>音声>影像の順に補われていく」「脳には、忌みのある単語や文を予想しながら不完全な情報を補うという先読みの能力が備わっている」「脳には連鎖的な記憶の仕組みがあり、呼び出す手がかりはできるだけたくさん残しておくとよい」など、タイトルにずばりと答えていない感が残る。
サブタイトルの「なぜ、紙の本が人にとって必要なのか」については、「電子書籍では量的な手掛かりが希薄」という程度で、肩透かし感が否めない。

書いていることが間違っているとは思わない。「単純・対称・意外性が美の要素になるのは、自然法則がそのような姿を見せているから」「記憶に残すためには、入力を制限して繰り返しに徹することが何より大事」「自分で考えて書き、書いて考える--そうした時間がないと、知識は自分のものにならない」「答えに出合った時点で、一切考えることをやめてしまう。それは、人間であることを否定しているようなものだ」などの一般則は本当にそのとおりだと感じる。読書についても「読むということは、単に視覚的にそれを脳に入力するというのではなく、足りない情報を想像力で補い、曖昧なところを解決しながら自分の言葉に置き換えていくプロセス。ゆえに、読書で常に言語能力が鍛えられることは間違いない」「読書に関心を向ける力は知的好奇心」など、賛同できる記述が多い。

でも、結局「なぜ、紙の本が人にとって必要なのか」は、いみじくも筆者が「電子化が悪いのではない。使い方が悪いだけだ。人間が書くことで考えることを取り戻せれば、コンピュータを賢く使うことに何ら問題はない」と記しているとおり、わからずじまい。どうにもモヤモヤする本だ。うーん…

【読書の記録と、本の再読。】

齋藤孝「読書力」を8年ぶりに再読した。実に面白い発見が多かったので、これはお勧めだ。

●8年の歳月は、人を変える。
8年前は「読みたい本がこんなに増えると年間80冊でも3年かかる」なんて思っていたが、幸いにして、年間100冊は読めるようになった。これは、自分が変わったなぁ、ということを痛感させてくれる。

●記録があると、比較できる。
8年前に読んだ本を覚えているか?と言われれば、ほぼ難しい。しかも、読んでどう思ったか?なんて、到底思い出せない。
…しかし。「記録」があれば、明確に比較できる。テキストは固定なので、良くも悪くも、容赦なく「その断面の」自分を突きつけてくる。今の自分の感覚を文字化すれば、その差異はビビッドに見えてくる。

●精神の成長を感じ取れる。
「身体測定(長じれば、人間ドック)」…そこは、数値化されるだろう。
他方。精神面の成長は、なかなか数値化できない。さらに言えば、「何がどう変わった?」という話になる。そこで、過去の自分が「本に対して」「精神的に」向き合った記録があれば、そこと比較できる。※数値化できない部分こそが、AI時代に大事だと思う。
ビビッドに、「過去の自分が書いた文章」に向き合う。本当にイヤだが、それは大事なことだ。

●記憶の曖昧さを知ることができる。
人間の記憶ほど、いい加減なものはない。なぜなら、思い出す、というタイミングで、「思い出そうとしている時点での自分の考え」や「こうであったらいい、というストーリー」を織り込んでしまうから。
つまり、現在の自分にとって「都合のいいように」捏造してしまうのだ。これが無意識に行われるから、怖い。
その怖さは、どう体感するか。「思い出してから、過去の記録を見る」と、その落差を明確に感じられる。

●習慣という怪物とどう付き合ったかがわかる。
「精神を凌駕することのできるのは習慣という怪物だけなのだ。」という三島由紀夫の名言を出すまでもなく、習慣の破壊力は凄まじい。しかし、「日々が連続するもの」として認知してしまう我々人間は、ついついそれを忘れてしまう。一定期間を経た振り返りは、それを可視化してくれる。

「記録」「積み上げ」「振り返り」。成長には、とても大事だ。引き続き、継続しよう。

【読了】齋藤孝「読書力」

今年117冊目読了。明治大学文学部の筆者が、本を読むことの意味と、読む力の鍛え方書き記した一冊。

〈お薦め対象〉
本をよく読む人はもちろん、むしろ読書と縁遠くなっている人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★★★

自分の問いは3つ。
『なぜ、本を読むべきなのか?』には「自分をつくる最良の方法である。言葉をより多く知ることができる。わからなさを溜めておく技が培われる」。
『本を読むことのメリットは?』には「思考停止せず、他者をどんどん受け入れていく柔らかさが培われる。読書を核とした向学心や好奇心が身につく。素早く要点をつかむかとができるようになる」。
『読書を、より血肉とするには?』には「ある程度の期間持続的にその本を読み続け、生活とオーバーラップさせる。自分の自己形成に関わった本は、線を引いた形でとっておく。本を読んだらとにかくその内容を人に話す」。

実はこの本、8年前に読んでいて、再読だ。「そうかな?」と思いながら図書館で手にしたが、これはこれで価値があった。少なくとも「読書が苦にならず日常で何気なくできる力」という読書力は身についたことが体感できたし、「自分では言葉にして表現しにくかった事柄が、優れた著書の言葉によってはっきりと言語化される。こうした文章を読むと共感を覚え、線を引きたくなる。」も、物凄く共感できるようになった。

「人間の総合的な成長は、優れた人間との対話を通じて育まれる」「口語体は日常生活で自然と身についてくるが、文語体は意識的な練習を通して身につけられるもの」「言い換えにはコツがある。抽象的なものは、具体的なものに少し直し、具体的な発言に対しては、少し抽象度の高い言い方で言い換える」のあたりも、バッチリ体感にフィットするようになった。自らの8年間の読書の積み重ねが感じられるとともに、そこに至ってなお味わい深い本書の力をしみじみ感じる。

未読の方、あまり本を読まない方、ぜしご一読を。

※恥曝しですが、8年前の感想は以下。いやぁ薄っぺらい!!

齋藤孝「読書力」読了。分かりやすく読書の必要性を説く。自己形成、コミュニケーションの基礎というのは全くそのとおりと思う。人間、なかなか自己を相対化できないが、読書ならそれがやりやすいからなぁ。読書はスポーツ、というのはやややり過ぎ感があるが。

余談だが、巻末にお勧めの100冊が掲載されている。有り難いが、現在読みたい本リストに140冊あるのに、こんなに追加したら年80冊読んでも3年かかっちまうじゃないか(爆)。えらいこっちゃ。

【読了】勝間和代「読書進化論」

今年116冊目読了。経済評論家、公認会計士の筆者が、「人はウェブで変わるのか。本はウェブに負けたのか」について考察する一冊。

端的に言って、駄本。第一章「人を進化させる読書がある」は、非常に共感しながら読めた。しかし、第二章以下はダメだ。ひたすら筆者の成功自慢と、それを賛美する書店員、カツマーのコメント。「断る力」では、筆者の失敗と、そこからの突破が描かれていて面白かったが、この本は全く面白くない。いみじくも、この本の記述「本はある意味、著書の与太話。面白い与太話と、つまらない与太話がある」の、まさにつまらない与太話。

「インターネットも本も、著書の頭から出てきたコンテンツを共有している」「本のほうがインターネットより優れている点は、有料のために市場原理が働きやすいので、コンテンツやその制作者が質に応じて淘汰されやすくなる。また、第三者による編集という手間暇がかかっているぶん、インターネットよりまとまって、きれいに整頓されている傾向がある」「本はウェブよりも濃度が高く、時間の費用対効果がいい」という分析は、至当。また、「読んだ本の成果は仕事や生活で活用しなければならない」「本を読むことは著書の体験を、読者が疑似体験すること」「本を読むとか、人と会話をする、というのは相手から刺激を受けて、自分のデータベースの構造を組み立て直す作業」など、いいことを言っているだけに、惜しい。

…そして。この人の文章はなんか読みにくい、と感じていたのだが、読み返してみると「読点(、)の打ち方が適切でないので、係り結びがねじれて見える」からだとわかった。筆者が指摘する『本とインターネットの違い』に、「インターネットは読み流されるが、本は通読されやすいので、より適切な言語の使い方が求められる」を個人的に追加しよう(笑)。

【読了】佐藤優「僕ならこう読む」

今年115冊目読了。元外交官にして作家、超読書家の筆者が、今と自分がわかる12冊の本の解釈を書き記した一冊。

〈お薦め対象〉
本を読む、または読もうとするすべての人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★★★

自分の問いは3つ。
『世の中はどう動きやすいか?』には「思考が硬直化したとき、暴力と狂気の世界はすぐこそこまできている。私たちの生活は、生活至上主義、合理主義、個人主義を基本としながらも、ときにそれを超えたところで大きな価値が生まれることがある。上からつくられた価値やスローガンに気をつけないと、思いもしない現実に突き当たる」。
『人の世の原則は何か?』には「宗教や文化、芸術というものは、他者と向き合うための場とテーマを提供してくれる。異質な者同士がときにぶつかり合いながらもコミュニケーションをとり、関係を築きながら互いに成長していく。情報を持つということは、いつの時代でも大きな力になる」。
『自分は、人生と世の中にどう向き合うべきか?』には「内なる悪を見つめ、それとどう向き合い制御するか、から始めることが最も健全。相手、特に組織を見極めるには、何を評価して何をタブーとするのかを押さえる。自我の成熟には、自己を突き放して客観的に見る目が何としても必要」。

本好きの端くれとしては、「読んでも意味のない難しい本と読む価値がある難しい本を仕分けする能力を身につけるには、優れた小説を読むことが大切」というのはズボッと抜けている部分であり、心に刺さる。

そして、「相手を認め、受け入れる間口の広さがコミュニケーション力の基本」「自己犠牲に基づく善なるものにこそ、人を動かす力が眠っている」という大きな話から「大きいお金を簡単に稼ごうとしないこと、欲をかかないことが人生の落とし穴にハマらない一番のポイント」「正解を探すのではなく、正解にしてしまう」など、簡単なように見える真実を貫く力には感嘆しきり。

本当にキツいのは「虚栄心や見栄とどう向き合い、その力を向上心のほうにうまく転化できるか」「真の自己愛は自己から離れるところにある。エゴから離れ、自分に対するとらわれから自由になること。そして目線を他者に向けること」という言及。でも、ここまで考えて生きてこそ…と、思う。

勿論、本書は「読み方」の本。でも、こういう優れた本は、一読をお勧めしたいし、ここに挙がって未読の本は、絶対に読みたい。これが、読書家の端くれの楽しみ。

そして。この本の本質はここにあり、と思うフレーズだけでも共有したい。「何にも拠らず自分を見つめる目を持つこと、自己省察の鋭利な刃を常に自分に向けること。その力が唯一の救いであり、本当の強さを持った自己をつくる唯一の」…これを読むために、この本があった。そう、思う。

【読了】勝間和代「断る力」

今年113冊目読了。経済評論家として人気を博する筆者が、自分の軸を持ち、生産的な提言や好循環をつくる変革を薦める一冊。

〈お薦め対象〉
本当の自分らしい人生を生きたい人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★★★

自分の問いは3つ。
『断らないとどういうことになるか?』には「コスト勘定で処理をされる。モノを深く考えないで済む。嫉妬されることを避けるがあまり、自分が持っていた突出した能力をなくす」。
『断るときに必要なことは?』には「常に自分の頭で考える。対等な人間関係であるという対等概念。自分に対して責任をすべて持てるのは自分一人だけ」。
『断った先にある世界とは?』には「自分が労力をかける分野を厳選して、そこだけに力を使う。事実なんてない、あるのは認識だけだ。自分たちの限界を知るからこそ、お互いに学び合っていく」。

発売当初、大いに話題を呼んだが、今更ながら読んでみて「ああ、なるほどなぁ…」と非常に共感する。「人をファンにするには、時間の積み重ね、集中でしか磨けない圧倒的才能が必要」「言いたいことを言うからこそ多くのファンがいる」など、実際にそのような生き方を体現している筆者だからこそ、そこにパワフルな説得力が生まれる。

テレビ先行だと、どうしても勝手な「食わず嫌い」意識が出てしまうが、実際の主張を見ると非常に筋が通って、かつわかりやすい。そこを実践し続けているという自信が、厚みを持たせている。これは、タイミングがずれたが読んでよかった。いや、それぞれの本は、その人にとっての旬がある。読みたいというきっかけに惹かれるように読んだ時がベストタイミング、なのだろう。