世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【他社のトラブル対応から学ぶ。】

先日の旅行で、某N社で借りたレンタカーに不備があり、代車手配となって大変だった。ま、現地対応はともかく、「しっかり状況を確認して原因を教えてください」と伝え、「2週間お時間をください、こちらから連絡します」と責任者。
…しかし、2週間たっても連絡なく、こちらから連絡したら「調査に時間がかかっていまして…もう少しお時間ください」との回答。そこから、考えてみた。

《ポイント》
●トラブル時こそ、後手を引いてはいけない。
トラブルの時は、顧客側は店舗に不信感を抱いている。なので、「連絡を待つ」という受け身はいけない。トラブルの原因が店舗側にある以上、常に「先手」を取って、不信感を増さないようにするのは鉄則。また、「自らは身構えて(=心理的に準備を整えて)話をすることができる」というメリットもある。

●面倒を避けたいという回避的な気持ち。
では、なぜその鉄則が守れないのか。それは「面倒を避けたい」という防衛本能が働いているから。誰しも、トラブルの時には連絡をするのは気が引ける。しかし、それがさらに相手の怒りを増幅させることに気づけていない。

《問題の所在》
●相手本位でなく、自分本位でトラブルを収めようとする。
電話口からも伝わってくる「早く終わらせたい」という思い。それは、トラブルにおいて顧客よりも自分を中心として考えているから。トラブル対応のマニュアルは、ある程度の会社なら備えているのだろう。しかし、通常の接客ならともかく(←それもいかがかというところだが)、トラブルはマニュアルでは解決しない。陳腐な言葉だが「相手に寄り添う」気持ち、応対が大事である。

立場上、トラブル対応をすることもあるが、逆にトラブル対応を受ける側になって「ははぁなるほど、お客様はこんなふうに『ないがしろにされている』感に腹が立つんだな」と体感できた。これはこれで、勉強になった。他山の石としたい。

自戒の念を込めて。

【ノートルダム大聖堂炎上に、思う。】

19年4月16日、衝撃のニュースが飛び込んできた。フランスはパリのノートルダム大聖堂が炎上した、というのだ。しかも、速報ベースでは「修復作業中の炎上」というのだから、泣くに泣けない。1949年の「国宝・法隆寺金堂火災(内壁の世界的な仏画が焼失した。模写中に使われていた接着剤を溶かすためのヒーターまたは電気座布団の漏電と思われるも結局不明)」を思い出す。

これを受け、マクロン大統領は現地へ赴き、再建を宣言したとのこと。この悲劇的な事故を受け、機敏かつ適切な判断であり、高く評価したい。

…それはさておき、考えたこと。

心理的距離とインパクトが、保全の格差を生む。
今回の事件は、パリのド真ん中にある有名観光スポットのひとつノートルダム大聖堂で発生し、かつ「炎上」という強烈なインパクトとともに損傷した。故に、大ニュースとして世界を駆け巡り、アメリカのトランプ大統領もツイートしている。
他方、コンゴ民主共和国の「ヴィルンガ国立公園」では、密猟によりマウンテンゴリラが絶滅の危機に瀕し、1994年から危機遺産に指定されている。しかし、物理的にも心理的にも距離が遠く、かつ、もう長年危機に瀕しているので、気にする人はどのくらいいるのか?というレベル。

これはまさに、人間心理「心理的距離とインパクトの違いが、関心の差異を生む」という結果である。
しかし、敢えて暴論を言わせてもらうと「建物は、作り直せる」。しかし、「絶滅した生物は蘇らない」。であれば、ヴィルンガ国立公園のほうを保全すべき、という考え方だってできる。

勿論、ノートルダム大聖堂は再建すべきだと思うし、多くの寄付が集まると思う。それは尊いことだ。
しかし、そうであるならなおのこと、ユネスコノートルダム大聖堂再建に予算を過度に振らず、引き続き保全困難な世界遺産への予算を減らさない(そうでなくとも、アメリカ脱退で台所は火の車)。それが、1092ある世界遺産保全する「全体最適」になるのではなかろうか。

●再建もまた、世界遺産の価値である。
かつて損傷した世界遺産といえば、ユーゴ内戦で傷ついたドゥブロヴニク旧市街クロアチア)を思い出さずにはいられない。

しかし。ここは、市民たちの凄まじい努力で復活を果たす。なんと、レンガを切り出す道具から、当時のままのものを再現する、という覚悟を見せたのだ。
そして、今は「内戦の悲劇と、そこからの復興」という新たな歴史をも語る世界遺産になったのである。

今回の被害は甚大であろうし、どのくらい「復旧」できるかは、全く未知数である。しかし、再建により、パリのセーヌ河岸という世界遺産に、新たな価値の一ページを付け加えることは可能だ。悲劇に立ち向かう人類の叡智と努力もまた、未来に引き継ぐ価値だと考える。

【観察、発見、伝達。】

仕事上、ポスター掲出の機会が多い。メンバーが、セロテープで貼っても剥がれる、と言っていたので
「セロテープを輪にして縦方向に貼っていないか。横方向に貼るとよい。ポスターが剥がれるのは、重力の縦方向の力がかかるから。なので、その力をもろに受ける縦方向より、力を分散できる横方向のほうが長持ちする」
と伝えた。
メンバーは「なるほど!凄く納得できます!」「学校の先生みたいにわかりやすい!」と褒めてくれた。そこから、考えたこと。

《ポイント》
●小さなことでも、観察してみる。
ものごとを行う際に「今までこうやってきた」「前任者にこう言われた」ということで思考停止してしまう状況は、実はかなり多い。どんなに小さなことでも、観察してみると「あ、こうか」と気付く発見があるものだ。

●理由を伝えると、人の記憶に残りやすい。
発見したとして、その知識をどう伝えるか。ただ単に「このほうがいい」だけでは、人の頭には残らない。「相手も知っている知識」に絡めて、理由を説明することで「なるほど!」とエピソードを含めて人の記憶に残ることになるのだ。

《問題の所在》
●「観察、発見、伝達」のサイクルを回していない。
よく「PDCA(計画:plan、do:実行、check:評価、action:改善)を回せ」と言われる。しかし、現代社会において大切なのは「計画」の前段階にある「観察」である。
観察しないと発見できない。また、その発見を伝達するには、様々な知識を蓄え、一般化する必要がある。

知識を蓄えることと、観察を繰り返すこと。その両輪こそ、今、必要ではなかろうか。

自戒の念を込めて。

【頑張る人への評価。】

先日、諸先輩方と飲んでいた際に、共通の知人である「頑張るけど、成果がなかなか出ない人」の話になった。みんな「一生懸命やっているから憎めない」「あれは人徳だ」などと評価していて、違和感まんまん。「ま、努力という矢印の長さはあるので、どうベクトルを調整するかですよね」と言っても「いやいや、頑張るだけで意義深いよ」…そこから、考えたこと。

《ポイント》
●「頑張る」ことは大事だが、それが即「評価」ではない。
正直、話をしていて「ズレズレ感満載」だった。そこの根源は「頑張る≒評価」であること。21世紀にそんなこと言ってたら、組織が滅びるしかないのに、それに気付けていない。

●リーダーはアウトプットの上げ方を「支援」するべき。
ただ、その人は一生懸命。でも、成果が出ない。そうであれば、リーダーとしては頑張りを評価するのではなく、「頑張り方」をガイドし、「頑張る」という有益なベクトルを「適正な」方向に向けることに注力するのが責務では。

《問題の所在》
●「汗をかくことが尊い」という20世紀型信仰。
21世紀に於いても尚、「汗をかくことが尊い」という信仰にとらわれているような気がする。でも、それは、リーダー側が「それを超える評価軸」も「間違った努力を適正に是正する力」も持ち合わせていないから。

そう考えると、むしろリーダー側の学習が不可欠なのだ。これを学習しないが故に、日本は太平洋戦争での戦争敗戦、平成不況という経済敗戦に陥った節がある。

このまま国家沈没という第三の敗戦を招くわけには、いかない。

自戒の念を込めて。

【読了】モーパッサン「女の一生」

今年54冊目読了。フランスの短編小説の巨匠が残した、長編小説の名作。

ある貴族女性の一生を、若かりし頃から老いさらばえるまで追いかける一冊なのだが、これが波乱万丈、意に沿わぬことが数々降りかかってくる。小説だから、ということではなく、多かれ少なかれ人生というものは思うに任せぬものだ、という真理をがっちりと描き出しているし、それに向き合う主人公の心の葛藤と苦悩が豊かな情景表現とともに生き生きと感じ取れる。なるほど、さすがモーパッサン、長編を書いても素晴らしい。

主人公は、ともすれば流されるだけ、というようにも映るが、実際にはこまごまと苦悩しながら小さい範囲で何とかしようとしている。で、傍から見るのと自分が見えている世界との乖離って、こんな感じなんだろうな、と思う。苦悩と不安に取りつかれている人間は、そうそうダイナミックな行動は取れない。「外野からはなんとでも言えるよな」という感じになってしまうだろう。

これは、「社会に出る・結婚する前」と、「一定量、社会経験を積んだ後」の2回読むのがいい本、だろうな。それにしても、この圧倒的な筆致。モーパッサンを読まずに40余年生きてきたこと、本当に後悔しきり。そう思わせるだけのエネルギーが、この作品には込められている。

余談だが、原題は「La Vie」であり、なぜ「女の」が入ったのか、ここはよくわからない。確かに主人公は女だし、わからんでもないのだが、「人生(まさに原題どおり)」の普遍性、ということを考えると、どうなのだろう。まさか女性名詞だからこうなったわけでもあるまいが…

【国宝】牡丹唐草文兵庫鎖太刀拵

大山祇神社所蔵。鎌倉時代に作られた太刀で、拵総長97センチ、柄を白の鮫皮で包み、細かい粒状の魚子地(ななこじ)に牡丹唐草文を高彫りした金銅の覆輪をかけ、牡丹文の大きな鋲を表裏4個打つ。
刀身は無銘で長さ60.9センチ、焼刃がなくとがった形のカマス切先である。護良親王の奉納と伝えられ、「集古十種」にも載っている。帯取の紐に銀の鎖を用いた太刀は鎌倉時代に上級武将に好まれた実用品だが、鎌倉中期以降は社寺への奉納品として扱われた。

実際に見てみると、その拵の精緻さに圧倒される。そして、鎌倉末期のものが、現代においてもその美しさを全く色褪せることなく輝きを放っていることが素晴らしい。さすが国宝、やはり持っているエネルギーが違う。そう思わせる一品だ。

【新入社員、着任。】

弊社では、本日、現場に新入社員が着任した。その緊張度合いから、感じたこと。

《ポイント》
●緊張は、成果を生まない。
まぁ、社会人経験がある程度ある人間からすると、どう見ても「いや、その緊張度合いでは、ベストパフォーマンスは出ねぇべ」と感じる。勿論、知識、技量は絶対に必要だが、緊張は成果を生まない、ということは伝える必要がある。

●先人の憧憬が、新人に甘過ぎる環境を作る。
逆説的だが、先人は「新人はこんなもんだよねー」という「新人ボーナス」を噛ませがち。でも、それは適正だろうか?
勿論、先人からの情報提供は一定量必要だが、「あの頃、私も苦しんでたから…」という忖度は、必要ない。カウンターに出れば、お客様にとっては「プロフェッショナル」。その厳しさは、必要。何故なら、「その」お客様のご旅行に、責任を持つ立場なのだから。

《問題の所在》
●「誰でも通る道」という謎のマジックワード
「誰でも通る道」。新人に対し、言いがちな言葉。
しかし。だったら、過去に経験したものが解決しとけ、っての(爆)。逆に言うと、解決できないままほったらかした現在の管理者の無能をさらけ出しているだけ。

基本的に「新人さん、眩しいよねー」「あのキラキラはどこから来るんだろう」議論には与しない。そんなのは、先人としての過去の追想でしかない。
今、彼ら彼女らに何ができるか。冷静に、そこを見つめて、支援することが大事。

自戒の念を込めて。